世界の中心であった英国に伝わる時計
この時計が作られたのは、第一次大戦が終わってすぐのこと。
当時、世界の中心と謳われた英国でも、戦争によって時計産業が被害を受け、時計の主要製造国であったスイスにさらに依存する形が進みます。
そしてそれと時を同じくして、時計製造の当時の新興国アメリカも世界へと躍進し、ウォルサムやエルジンといったメーカーも、英国へ時計を供給するようになっていきます。
この時計はそんな時代背景が伝わる、時代的にも希少な腕時計です。
英国仕立てとご説明しているのは、当時の時計の作られ方や仕上げられ方から。
当時は、機械メーカーと時計のケースを作るメーカーが別であることが珍しいことではなく、その国の販売基準や貴金属の表示基準などに基づいて、それに合うように、機械だけを輸入して、販売を行う国でケースを作って時計として仕上げるということがありました。
この時計もそんな形が取られた1つであり、機械は1918年にアメリカで製造されたものではありますが、それが海を渡って英国製の腕時計のケースに収められた上で、時計として仕上げられ販売されていたものです。
そのため、良くご存じの方なら、その作りをご覧いただければすぐにお分かりいただけるのですが、非常に特別な作りのケースになっています。
この時代のものであれば、母国アメリカのウォルサムであれば、機械回りをネジ止めしてケースに留めていた時代ですが、この時計では、機械を留めて、さらにその留めた部分をケースにネジ止めするという、特殊な技法が取られています。
現在であれば、同じメーカーの時計であれば、それこそ寸分たがわず、まったく差異すらない物。
それが100年の時を遡って時代が変われば、そこには各国の思惑であったり、当時の事情などが複雑に絡み合い、時計自体が違ったものになるという、アンティークならではの面白さがあります。
アンティーク時計では人気のクッション型の金時計。
ウォルサムの上品なローマ数字の陶製の文字盤に、ブルースチールの針という、この時代ならではの特徴を備えています。
100年経った今になって、新しい現行品の高級ラインで陶製の文字盤が採用されているのは、そこには陶製の文字盤ならではの、上品な質感があるから。
このような古い時代の時計には、復刻や再現という名のもとには得ることができない、オリジナルであるが故の本物の良さが光ります。
また、良いものが集まった英国ならではの、しっかりと厚みのある金のケースも、価値と趣きを感じさせるもの。
20ミリという幅のしっかりとした革バンドは、ワイヤーラグというベルトを巻き込んで留めるタイプの作り。
現在の大きな時計が好まれるという傾向にも沿う、時代に流されない作りも、アンティークを楽しみやすくさせてくれる要素です。
店主のワンポイントと評価
総合評価
シンプルな作りではありますが、それだけに却って現在では真似のできない味を持つデザイン。
この時代のわずかな期間の特徴的なケースの作りで、オメガ・ロレックスなど、名だたるメーカーもこの時計と同じメーカーのケースを採用し、このような作りの時計を世に出していました。
特に年代の古い腕時計として、その中でもデザイン的に優れたものということで、アンティークでは人気のある形。
英国の良さとアメリカの良さを取り入れた、美しい初期の腕時計だと言えるでしょう。
アンティークではありますが、着けた心地の良い時計であり、上品で高級な質感を感じていただけるもの。
時代に流されないでデザインということもあって、歳を重ねても長くご愛用いただけるのもお勧めしたいポイントです。
状態
特記事項はありません。
希少性
元々少ないクッション型の金時計で、見えない部分ではありますが、非常に特殊な作りが取られたケースです。
まったく同じものとなると、入手が非常に困難なものです。
贈り物
アンティークでは特に懐中時計で名の知られたウォルサム。
懐中時計時代と腕時計時代が重なる時代の時計も、味のある時計を輩出しています。
デザイン的にとても着けていただきやすい時計で、四角形ではありますが、程よい丸みや形の特別さが非常に上品で、高級感を感じさせてくれる作り。
贈り物としても価値を感じていただける作りで、とてもお勧めできる1点です。
備考
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