腕時計時代に作られた懐中時計の新境地
1925年のパリ万国博覧会から花開き、1920年そして1930年代に大きな時代の波が訪れるアールデコ。
時代的にまさにその只中に作られた懐中時計で、その影響を色濃く残したデザインに特徴のある懐中時計です。
他の産業と同じく時計も大量生産の時代に入り、そして懐中時計が作られる数は激減し、腕時計の時代へと移り変わるそのさなか、古い形を踏襲つつ、遊び心と新しい切り口で作られた味のある作りが特徴。
全体的に「デザイン」に特に主眼が置かれて作られている時計で、総じてどこを見ても味がある、面白さがある作りになっています。
特に文字盤の作りがとても面白く、見た目のデザイン性が高いのはもちろんのことですが、時計の作りという観点から見ても面白いもので、金属製の文字盤には塗料や金属のインデックスを取り付けるのが当たり前だった時代の中にあって、文字盤自体にデザインを彫るような立体感を持たせてあります。
写真からでは少しおわかりいただきにくいのですが、作りの特別さは他の懐中時計と比べていただければ一目瞭然。
ただ単に色付けや金属のインデックスを取り付けるだけでなく、金属の特性を生かし文字盤自体に凹凸を持たせることによって、デザイン的に大きな広がりを見せることに成功した1点だと言えるでしょう。
惜しむらくは、懐中時計時代の終焉近くであったため、作られた数自体も少なく、他メーカーも追随しなかったものではありますが、懐中時計を知る人が見れば、その作りに「味」を感じていただける、文字盤だけでも大きな個性を持ったものです。
また懐中時計のケースの作りは、1920年代頃に流行った、時計の形自体を変えて特別な作りに見せるという技法。
十角形という形自体もそうですが、花など細やかな模様が施されているところが、昔の姿を踏襲しているという点で面白く、新しい形での文字盤の作りではありますが、古い時代のケースの作りととてもよく調和していて、アールデコというスタイルにうまくまとまって表現されています。
店主のワンポイントと評価
総合評価
ある意味で停滞していた懐中時計に、うまく新しい息吹を吹き込んだもの。
今でいえば、それこそ手巻き時計を知らない方が、手巻き時計に関心を持っていただけるのに似ているかもしれません。
現代でもはっとするような衝撃が感じられるように、その時代にあっても、それまでの懐中時計との違いをはっきりと示してくれたものだと思います。
それだけの味を持った作りだけに、懐中時計を持つことの楽しさを、より違った形で伝えてくれる。
少し年代としては新しい懐中時計ではあるものの、アンティークらしさをより備えていて、古い時代ならではの良さが楽しめる時計だと思います。
状態
少し文字盤に経年劣化がありますが、拡大した写真で目立つ程度のもので、肉眼・実物ではほとんど気にならない程度の状態の良いものです。
年代や素材を考えれば非常に状態が良いと言えます。
文字盤そのものは艶のある銀色ですが、写真では色合いと雰囲気がうまくお伝えできないのが残念です。
希少性
懐中時計全盛期のものではありませんので、作られた数自体が少ないもので、その中でも特殊な作りのものです。
デザインや作りという条件に、さらに状態の良いものとなると、入手の難しいものです。
贈り物
白い陶製の文字盤を持つ懐中時計が、アンティーク懐中時計の定番であるなら、これは少し年代が進んだ時代に作られたからこそ、このような形のものが作られたという、時代に生み出された作品と言えるでしょう。
贈り物としてもとてもお勧めできるもので、「特別なアンティーク」というイメージに、とてもぴったりとくる1点です。
備考
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