時計も機械にもカーブをつけて
時計のデザインとしても、非常に上品な顔立ちのハンサムな腕時計。
時計でありながら、数字を使っていないところがその上品さの理由の1つ。
この時計の写真をご覧いただくと、スーツ姿などに似合う、この時計を着ける姿が容易に想像することができるのではないでしょうか。
「大人の遊び」という、ちょっと渋い表現にぴったりとくるデザインではないかと思います。
もう1つご覧いただきたいのは、時計自体のデザインや形。
腕時計の形・ケースがカーブを描いていることはもちろん、その風防(ガラス)も三段・三面になった特殊なデザインになっています。
大きく違うのは、時計のいわゆる表面だけがカーブをしているのではなく、腕にフィットするように、時計の裏面もカーブ同様にカーブをしている点。
誰もが着けている時計ではなく、明らかな違いを楽しんで頂ける1点です。
時代に名を残した「カーベックス」
腕時計の歴史が始まったのは、おおよそ20世紀の始まりの頃。
100年に及ぶ長い歴史の中で、懐中時計のスタイルを踏襲したものから始まり、金属の加工技術の高まりから、より現代に近いものへと移り変わっていきます。
その長い年月のなか、本当にたくさんのメーカーが生まれ、数々の時計が作られてきましたが、この時計グリュエンのカーベックスは本当にその長い歴史の中でも特殊なもの。
機械式腕時計が最も華やかで最も栄えた40年代頃。さまざまなメーカーが競うように新しい技術やデザインを発表し続けていました。
そんな中、グリュエンによって腕にフィットするように時計自体をカーブさせてしまった時計が発表されます。それがこのカーベックス。
時計自体を腕にフィットするようにカーブをさせ、さらに中の機械までもケースに合わせてカーブをさせてしまうというこだわりよう。
時計の本体がカーブしているという非常に斬新で、他のメーカーを完全に出し抜いたアイデアと、そのカーブを利用したエレガントなデザイン性の高さは、カーベックスの発表と同時に人々の中に「カーベックス」という名前を刻みつけ、グリュエンというブランド名をもはるか高くに押し上げました。
このカーベックスはその後、時計史に新しい一時代を作り上げ、カーベックスが高級時計の代名詞にもなったほど。
さらにこの時代を境に、時計がカーブをしているものを「カーベックス」スタイルと呼ぶようになったのです。
長い歴史の中でも、1つの商品名がスタイルの名前になったものは、本当に一握りでしかありません。
かつその名前が広く知れ渡り、現在でも使われているものとなると、このカーベックスこそが代表格だといえるでしょう。
店主のワンポイントと評価
総合評価
1930年代の中頃から10年以上に渡って愛され続けた、グリュエン「カーベックス」の1つ。
その時代ごとにデザインは変わっていきますが、その中でもデザイン的にとても品があって味のある1点だと思います。
メーカーが同じような時計を発表していますので、誰もが当たり前の同じような時計を着けるような時代になりましたが、ここにきて「個性」そして多様性が良しとされる時代になりました。
このカーベックスのように、「これだ」というデザインは、また時計を着けてみよう・楽しんでみようと思わせてくれる1点だと思います。
状態
特記事項はありません。
希少性
外観やデザインの特殊性から、今でも根強い人気があります。
贈り物
アンティーク時計というところで攻めるのであれば、このカーベックスのように個性際立つタイプは、見ていても着けていても楽しいもの。
こういった特殊な形をした風防自体も、現代では目からうろこといった感覚で楽しんで頂けるものだと思います。
備考
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