古き良き時代の紳士の携行品
その時代ごとに、「紳士」と呼ばれる人たちが手にするものは変わっていくもの。
現代であれば、携帯電話・スマートフォンが必需品ですが、そういったものが無かった時代は何だったのでしょうか?
1940年頃、そんな時代に携帯電話なんてもちろんありません。
ステッキ・腕時計に品の良いカバンなど、思い浮かべていくだけで、その当時の人々の姿が頭の中に思い描かれるのではないでしょうか?
この時代の時計は、腕時計全盛期と呼ばれる時代。
こぞって各メーカーが様々なデザインの腕時計を生み出していた時代ですが、それはある意味で「誰もが楽しめる時計」という範囲。
腕時計を腕時計として当たり前に着ける、それでは面白味に欠けるというもの。
一つ上の楽しみ方に必要なのは、普通ではない「特別なもの」という点が必須。
この時代の腕時計には様々なものあれど、腕時計だけでは面白味に欠ける。
そんな時計のさらなる形を求めて、懐中時計でもない、そして置時計でもない、「当たり前」とは違った楽しみ方が時計として提供されたのが、このような携行型の置時計です。
置時計と言うと、少し大きな重たいものを想像されるかもしれませんが、そこは一つ斜め上を行く楽しみ方。
懐中時計のような携帯性があり、手のひらに入る程よいサイズ感。そして懐中時計よりもお洒落なもの。
置時計のような形をしているものの、吊り下げる輪の部分に、チェーンを回せば、懐に収める「懐中」時計。
新しいコンセプトからの、一種の新しい懐中時計だと言えるものでしょう。
まるでお洒落な新型の懐中時計
時代としては、すでに懐中時計から腕時計の時代へと完全に変わった頃のもので、懐中時計としてはその時代を終えたと言っても良い時代でしょう。
そんな時代にあって、人々の心のどこかには昔を懐古する想いがあり、それでいて特別なもの、新しいものを身に着ける。
それは現代にあっても変わらないといえるもの。
そこで生み出されたのが、この時代でいう所の「新型の懐中時計ならぬ、携行型時計」という目の付け所を変えたコンセプト。
確かに「懐中時計の変種」と言ってしまえば、そうであるかもしれませんが、大きく変わっているのは、「置ける」「携行できる」というそれぞれの特徴を活かした点。
「旅行用時計」という名前もありますが、このような形で置時計を携行するのは、この時代ならではの違った角度からでの贅沢であったのかもしれません。
この時計の面白いところは、携行する際は、しっかりと蓋がしまった小物入れのような形をしている点。
まるで昔の煙草やマッチケースのように、金属で作られたケースは、表蓋と裏蓋をパチンと挟んでしめるような形をしています。
しかもただ単に閉まる・開けるという動作だけではなく、ちょっとした細工が施されていて、開ける時はケースの出っ張りの部分を押し込むと蓋が開くわけですが、開くと同時にさっと内側の時計本体がスライドして立ち、すぐに置くことができるような形に早変わり。
そして閉める時は、時計本体を少し押し倒すようにして、蓋をそのまま閉めていけば、パチンと閉まってまた元通り。
腕時計でも時間を見るのに用が足りた時代に、なんとも贅沢なものだと思われませんか?
ケースの外側は革張りになっていて、クロコダイルの上品な艶と模様が楽しめます。
まるでケースを開くと、ダンヒルのライターがお目見えしそうなほど、雰囲気の良い作り。
時計本体の形にしても、この時代ならではのものですが、シンプルながら落ち着いた雰囲気に味があります。
ボタンを押すとポンっと開く、「飛び出す」という言葉が似合いますが、このような奥深い時計を懐中時計として、また机に置いておく時には置時計として、楽しんでいただくのも、この時計・アンティークならではの楽しみ方と言えるでしょう。
時計の機械も高級時計メーカーであるスイスのエベル社製。
イギリスを代表する高級ファッションブランドであるダンヒルの、この時代ならではの特別さが映える。
色々な面白さの詰まったアンティーク時計だと言えるでしょう。
店主のワンポイントと評価
総合評価
煙草が敬遠される時代にあっても、「ダンヒル」の名前とそのライターの使い心地の良さ、カチンっという心地よい響きと切れのある動きに、懐かしさを覚える方も多いのではないでしょうか。
ダンヒルのライターの中には、時計も組み込まれているタイプもありますが、ちょっと携帯性や視認性という意味では、ライター兼用品は時計としては使いづらいところがあります。
その点こちらの時計は、縦横4センチ弱の程よい大きさで、時計としてのダンヒルを楽しんでいただけるもの。
ボタンを押すとさっと開く様は、まるでダンヒルの一つの代名詞でもある、そのライターの作りを彷彿とさせます。
トラベルクロック(旅行用の時計)という肩書も持っている時計ですが、懐中時計兼置時計という使い方がぴったりくるものだと思います。
すでに懐中時計をお持ちの方なら、すぐにお分かりいただけるものですが、携行している間はよいのですが、オフィスなどでも机に置くとなると、そのままでは固定というのが出来ませんので、寝かせて置くのか、スタンドなどに立てて置くのかという選択肢になります。
その点、この時計であれば、移動中なら懐中時計、開いた時点で置時計に早変わり。
なんとも洒落たものではありませんか?
状態
特記事項はありませんが、外側の革張りの部分は、劣化していたため新しくクロコダイルに張り替えられています。
希少性
わずかな経年による変化は見られますが、文字盤などの状態も非常に良く、メーカーや形としてもとても珍しい時計です。
贈り物
懐中時計とは一味違った、この時計ならではの面白さのあるものです。
特に、一味違った懐中時計をお探しの方にお勧めしたい1点です。
備考
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